2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

うつせみ

入院を知らせる電話の最中、携帯電話がふるえて30秒後に電源が切れると警告してきた。のこされた30秒でなんとか会話をきりあげると、直後、再びぶーんとうなりをあげて、それを最後に画面が暗転した。てのひらに余熱を感じながらぱたん、ととじると、電池の…

夜の嵐

雨音をバックに流れるピアノを雷鳴がかき消した。たてつけの悪い窓ごしに強風が障子をかすかにふくらませる。先週暖気にうかれて髪をきったせいで、むき出しになった首すじがすこしさむい。 めざめよと呼ぶ声ありて春の来る

天に積め

つい先週、鯨幕がはりめぐらされていた低い塀ごしに、今朝みた庭は、いちめん真新しい砂利がしきつめられ、物干しだけがにゅっと2本、立っていた。毎朝とおりすがりにながめた苔むす庭石も、丹念に刈り込まれたサツキも、冬枯れをしらぬげなリュウノヒゲも、…

小鳥群れとぶ

風に背中をおされるようにして坂道をのぼっていくと、自転車にのった高校生の一団とすれ違った。 笑いさざめきながら追いつ追われつ下っていくのが、ヒワかエナガの群のようで、振り返って見送れば、あかるい色のコートが風にあおられて翼のようにはためいて…

春の食事

洗濯物を干していると、ぴりりと可憐な声がしたので手をとめてあたりをうかがうと、マサキの垣根のなかを上下するふたつの影がみえた。しばらくそのまま待つと、ひょいと表面の枝に出てきたのはメジロだった。抹茶色のあたま、黄色ののど、そして目のまわり…