2008-01-01から1年間の記事一覧

残照

道にそって咲く白い百合はレトロなランプに似て、毎日すこしずつ日暮れが早くなる帰路を照らす。昨日より今日、今日より明日としだいに数を減らし、灯りがすべて落ちるころ、秋の闇が残る。

Quo Vadis

窓ぎわの棚にならんだ本で裾をおさえられたカーテンが、乾いた風をはらんで帆布のようにふくらんでいる。部屋の奥深くさしこむ朝の陽ざしに白く輝くさまにみとれながら、足もとの板張り一枚へだてて、静止している建物がそのまま海上へ滑りだすのをまなうら…

減反

夏至が近い。田ごとに映りこむ風景は稲の生長につれて紗がかかり、おぼろになっていく。そんななか時々半分ほど苗を植えずに残された水面には、いまだに雪を残した山並みがくっきりと稜線を浮かび上がらせていて、その澄明さが痛々しい。 幼いころから見慣れ…

サン・ジョルディの日

あのひととどうなりたいかわからない今日も書棚をめぐって帰る

名残

廊下を歩いていると金色のコーティングをした針金入りのリボンが落ちていた。ああそういえば昨日はバレンタインデーだった、と他人事のように思っている。 針金はその名を「エスタイ」というらしい。