ゆるやかな死を死ぬ

リンドウは陽にあててやらないと花がひらかない。 朝、白い一輪挿しに活けた枝を窓ぎわの日なたに出してやり、錐状のつぼみが藍色にほころぶのを待って食卓に飾りなおす。閉じては開き、開いては閉じるのを幾日か繰りかえすうち、深緑の葉の縁が赤茶けて、い…

残照

道にそって咲く白い百合はレトロなランプに似て、毎日すこしずつ日暮れが早くなる帰路を照らす。昨日より今日、今日より明日としだいに数を減らし、灯りがすべて落ちるころ、秋の闇が残る。

星を踏む

夜半から風もなくさらさらと降りそそいだ雨が、山桜の大株の下、ひろがった枝のかたちをなぞるように花弁をはりつけていた。夜明けのしめった薄闇のなか、ぬれたアスファルトに白々と浮かびあがる花びらを踏めば、星空をゆく心地がする。

つぼみにおう

日に日にふくらむつぼみは今日、にえきらない曇天の下で、光によって漂白されないぶん思いがけず色濃く浮かびあがっている。ほころべばしだいに淡くなる花色を思いながら、風に揺れる枝をみている。

相対

毎朝見る濃い青色のアサガオはまだつぼみを残しているものの、色がだんだんあせてきている。それは空の青が深くなったせいなのかもしれないし、緑だった葉が色づきはじめたせいなのかもしれない。

夜明けの洋燈

長々と降り続いた雨があがった明けがた、いまだに空の半分をおおう雲は雨を落としきって白く透きとおり、薄青い空に波打ちぎわのような裾をひいていた。橙色の花をたわわにつけた軒先のノウゼンカズラが白い壁を夏の明るさで照らしている。

存在証明

通勤時にのぼる坂道は幹線道路の渋滞を避けるための抜け道になっていて、せまいわりに交通量が多い。その坂でときどき、水を入れたじょうろをふたつ一輪車にのせたおじいさんと会う。それはもう、一輪車を押すというより一輪車にすがっているような足取りで…

白い花火

近所でニラの花が盛りを迎えている。伸びては取って食われ、伸びては取って食われを繰り返して、やっとのことで咲かせた花は、小さな白い星をちりばめたような可憐な姿をしている。夕暮れの薄闇の中、このにおいさえなければかなりロマンチックなのに、と注…

領空侵犯

わざとむしらずにおいた半野生化した朝顔が、庭の裏手の植木を伝って知らないうちに隣家の梅に絡んでいた。うちの木と違って整然と剪定された年季の入った枝で、誇らしげに咲いているさまを見て「うちの子がどうも…」と申し訳ないようないじらしいような。 …

日陰の花

駐車場に車を入れていると視界の端に白いものがうつる。車を停めてから白いものが見えたボイラーの下を覗き込むと、窮屈そうに茎を折り曲げた百合の花が、付け根から花びらが朽ちた状態でいましも枯れんとするところなのだった。 ボイラーの横、焼けこげそう…

また会う日まで

アジサイの花が色あせて白茶けてきたので剪定をはじめる。来年の花のことを考えたら今年伸びた分だけしか切っちゃいけないのだけれど、もう大きくなりすぎて圧迫感があるので根本から間引く。地面が黒々と露出したのを見て、アジサイの葉の遮光率が思った以…

てっぺんについたら

職場の窓から深紅のタチアオイが見える。大人の背丈を優に超してまっすぐに伸びた茎を、少しずつ上へと咲き上るその花を、朝夕窓を開け閉めしながら確認するのが日課になっていた。きょうその花がてっぺんまで咲ききってしまっているのに気づいて、梅雨も明…

ツユクサと郷愁と人の記憶と

kinaさんの「街中の空き地で(http://d.hatena.ne.jp/kina/20050701#1120186736)」を読みながら、そろそろツユクサの花が見たいなぁと思う。 うちの庭のツユクサときたら、草取りの時も雑草扱いしないでわざわざ残してやっているのに、茎は太く株は大きく、…

短歌日記:花と人と

うっかりしているうちにラベンダーの花が開いてしまったので、ポプリに加工するのはあきらめて全部刈り取る。樹形が乱れ放題なので、この辺でリセットを目指して枝もごっそり切り尽くし、株を丸坊主にする。うろうろと寄ってきた蚊がラベンダーの香りにひる…

写真日記花:ガクアジサイ開花

この一週間でかなり色づいた装飾花にかこまれて、アジサイの本当の花である両性花が開花した。 参考:アジサイの開花はいつ?(http://homepage2.nifty.com/tnt-lab/s/nat/azisai/azisai.htm)

写真日記花:金糸梅

無精して剪定をおこたったので枯れ枝と新枝がひっからがって大変なことになっていたキンシバイ。この春の泥縄剪定が功を奏したのかどうか、乱れきった樹形はともかく、今年も無事に花をつけた。雨が少ないせいか咲いた花はすぐしおれてしまうけれど、次々と…