存在証明

通勤時にのぼる坂道は幹線道路の渋滞を避けるための抜け道になっていて、せまいわりに交通量が多い。その坂でときどき、水を入れたじょうろをふたつ一輪車にのせたおじいさんと会う。それはもう、一輪車を押すというより一輪車にすがっているような足取りで、行き交う車を縫って横切るのを見るたびに肝が冷える。
そうまでして水を運んでいるのはガレージに並べた菊の鉢のためで、今年もふと気がつくと五指に余る大輪の花をつけていた。白に黄色に薄紅、厚物に管物。少し遅刻気味だった今朝、鈍色の大鉢の下からはすでに水が坂を流れ下っていた。