2005-01-01から1年間の記事一覧

雪山

日中優柔不断に小雪を散らしつづけた雲は暮れどきになってようやく去り、黒々とした東の前山のむこうに高峰がくっきりと姿をみせた。傾く日を受けて、原石から顔を出した薔薇石英のように輝いている。

はつゆき

車のドアを閉めて、冷たい外気にずっとふせていた顔を上げると、視線のさきの山が白い雪ぐもをかぶっている。駐車場に着く頃には横なぐりの風に白いものが混じりはじめ、みるみるうちに綿をちぎったような大粒の雪になった。逃げ込んだ店のガラスごしに見上…

存在証明

通勤時にのぼる坂道は幹線道路の渋滞を避けるための抜け道になっていて、せまいわりに交通量が多い。その坂でときどき、水を入れたじょうろをふたつ一輪車にのせたおじいさんと会う。それはもう、一輪車を押すというより一輪車にすがっているような足取りで…

光の当たる場所

うすい雲ごしの午後の陽は弱々しく、あたりの山々をくすんだ枯葉色に見せている。切り株だけが目立つ田んぼの中の農道をまっすぐまっすぐ走っていると、忽然と銀杏の木立が浮かび上がってきた。黒々と無骨なまでの幹の下に、そこだけ妙に鮮やかな金色の銀杏…

赤い星、金の星

月を隠した雲は不思議な白さで頭上を覆い、山ぎわだけ帯状の夜空がのぞいている。東に火星、西に金星、細かい雨はかすかに降りつづいて、ぬれた落ち葉の匂いがする。

緑の水

秋のダム湖は紅葉直前の疲れた緑を映してどろりと重く、曲がりくねった狭い国道は橋とトンネルを連ねて谷の奥へ続く。連日の雨を集めて路肩すれすれまで水位は上がり、水をわける舟のように蛇行しながら車は進んでいく。

迷子スズメ

朝晩が涼しくなって気持ちがいいので、朝から職場の窓を開けはなっていたら、至近距離で雀の声がする。作業をしながら、おかしい、外で鳴いてるにしては近すぎる、と顔を上げると、窓ぎわの棚の上でやせっぽちの雀がはねている。 よせばいいのに閉まっている…

トビと草刈り機と選挙カー

低い雲の下を孤を描いて飛ぶトビをああ、トビだなぁと見上げて、視線を戻す。が、その直後エンジン音とともに、「…時より、…と語る会を…」と選挙の集会告知の声が聞こえる。 えっ、トビだと思ったけどプロペラ機だった?と見上げれば、やっぱりトビはトビの…

白い花火

近所でニラの花が盛りを迎えている。伸びては取って食われ、伸びては取って食われを繰り返して、やっとのことで咲かせた花は、小さな白い星をちりばめたような可憐な姿をしている。夕暮れの薄闇の中、このにおいさえなければかなりロマンチックなのに、と注…

領空侵犯

わざとむしらずにおいた半野生化した朝顔が、庭の裏手の植木を伝って知らないうちに隣家の梅に絡んでいた。うちの木と違って整然と剪定された年季の入った枝で、誇らしげに咲いているさまを見て「うちの子がどうも…」と申し訳ないようないじらしいような。 …

日陰の花

駐車場に車を入れていると視界の端に白いものがうつる。車を停めてから白いものが見えたボイラーの下を覗き込むと、窮屈そうに茎を折り曲げた百合の花が、付け根から花びらが朽ちた状態でいましも枯れんとするところなのだった。 ボイラーの横、焼けこげそう…

短歌日記 里帰り

浴槽に沈む緑の丸い球ぬるいぶんだけあまいよお食べ 「クワガタのエサのゼリーを買わなくちゃ」どこから訂正すべきか迷う

はるかにのぞむ光の噴水

クーラーで冷え切った身体を、昼間の余熱がのこる車内の空気に浸して高速道路を走っていると、まっすぐ伸びた車線の向こうに小さく小さく光の柱が噴き出すのが見えた。 花火って遠くから観るとこんな風に見えるのかと思いながら、それが子どもの頃やった、据…

にじゅうしのひとみ

恒例の夏の宴の真ん中に座らせて、あれを食べろ、もっと皿を近づけろ、スプーンの方がいいか、暑くはないか、麦茶はいらないか、疲れたか、眠くはないか、と一同注視にとどまらず、代わる代わる口と手とを出すので、たぶん祖父本人は個体識別もできずに疲れ…

朝の食卓

ここ数日、起き抜けにやたらスズメがうるさいなぁと思っていたら、ちゃんと理由があった。 日曜にアジサイの剪定をしたので、新梢や花についていたアオバハゴロモ( http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/youtyuu/HTMLs/aobahagoromo.html)の幼虫が、マサキの垣根…

台風一過

朝、窓を開けたらめまいがするほど青い空が広がっていて、これは秋の色だと思う。台風一過のグラフが楽しい http://d.hatena.ne.jp/keywordstats/%c2%e6%c9%f7%b0%ec%b2%e1?type=refcount&range=400

理由

ひそかに尊敬してやまない職場の先輩の机の上に退職関係の書類を見た日から、直接聞こうか周りの人にそれとなく聞こうか、ひと月あまり逡巡したあげくに今日ふたりだけになる時間があったのでおずおずとたずねてみたところ、誤解だったことが判明。すっかり…

また会う日まで

アジサイの花が色あせて白茶けてきたので剪定をはじめる。来年の花のことを考えたら今年伸びた分だけしか切っちゃいけないのだけれど、もう大きくなりすぎて圧迫感があるので根本から間引く。地面が黒々と露出したのを見て、アジサイの葉の遮光率が思った以…

てっぺんについたら

職場の窓から深紅のタチアオイが見える。大人の背丈を優に超してまっすぐに伸びた茎を、少しずつ上へと咲き上るその花を、朝夕窓を開け閉めしながら確認するのが日課になっていた。きょうその花がてっぺんまで咲ききってしまっているのに気づいて、梅雨も明…

薔薇の垣根は

シックな深いこげ茶の板塀に、赤いつる薔薇の小花がからむモダンなさまが気に入っていた近所の家で、建て替え工事が始まっていた。板塀があったところには住宅メーカーの作業用のシートが張り巡らされて、薔薇も板塀も跡形もない。だいぶ古びた家だったので…

短歌日記 記憶

記憶とはちがうあらすじなぞる君それでもいいよそのほうがいい

スズメの獲物

なにやらスズメが緑色の細長いものをぶら下げてるなぁと思って目をこらすと、最初青虫かと思ったそれはスズメの体長ほどもあるカマキリなのだった。夏やせした(実際は夏なので羽毛がふくらんでないだけだと思うけど夏のスズメはスマートだ)華奢なスズメが…

河原の書斎

日暮れの近い河原のでこぼこ道を、車の腹を擦らないようにのろのろ進んでいくと、川岸の草地には先客がいた。白い車の横をすり抜けながら見やれば、Yシャツの前をはだけた男性がドアから片足を出してけだるげに雑誌を読んでいる。終業後の明るい夕べ、家族…

短歌日記 自分チューン

血のなかに溶ける酸素を意識して深く呼吸をしなさい常に

短歌日記 大気をわかつ面

夏至を過ぎたとはいえ、夕方はなかなか暗くならない。わかっていても、あたりが明るいうちに帰路につくとなんとなく後ろめたい。やっと日が陰った道を歩きながら、まだ明るみを残す空をふり仰ぐと、すでに暗がりに入った低空の薄い雲のあいだに、そのさらに…

人身売買?レシート

よく行くスーパーには地元農産物コーナーがあって、曲がったキュウリや不ぞろいなタマネギや巨大なエリンギなんかがふつうのビニール袋*1に入って手書きのラベルつきで売っている。見た目は悪いけどけっこう新鮮でおいしくて地産地消にもなるとあって愛用し…

童心臨界点

つぶてのように傘をうつ豪雨の中、家路をたどる。街灯も側溝もない黒々とした細道には水たまりというより小川が待ち受けていて、足を踏み出すたびになま暖かい水が間抜けな音を立てて指の間をすり抜ける。水を避けて歩くのをあきらめたあたりから、だんだん…

冷たい食卓

いちばん堪えるのは、やれ吸い込むな、熱くない?こっちも食べてよ、薬のもうか、歯ブラシしよう、と怒濤の食事時間を終えるやいなや、さっさと寝られてしまったあと。 細かく刻み、消化やバランスを考え、薄味を心がけた食事を機械的に流し込む。日によって…

けものみちを避けて

昨日から夜にかけて降った強い雨のせいで、そろそろ盛りを過ぎつつあるアジサイの花が寝乱れた浴衣美女みたいになっている。 ずっと降っていなかったところに急に降ったので、山道は要注意かも知れない。毎週峠を越えるのに同じ道を通るのが退屈なので、地図…

ツユクサと郷愁と人の記憶と

kinaさんの「街中の空き地で(http://d.hatena.ne.jp/kina/20050701#1120186736)」を読みながら、そろそろツユクサの花が見たいなぁと思う。 うちの庭のツユクサときたら、草取りの時も雑草扱いしないでわざわざ残してやっているのに、茎は太く株は大きく、…