うた
あのひととどうなりたいかわからない今日も書棚をめぐって帰る
雨音をバックに流れるピアノを雷鳴がかき消した。たてつけの悪い窓ごしに強風が障子をかすかにふくらませる。先週暖気にうかれて髪をきったせいで、むき出しになった首すじがすこしさむい。 めざめよと呼ぶ声ありて春の来る
浴槽に沈む緑の丸い球ぬるいぶんだけあまいよお食べ 「クワガタのエサのゼリーを買わなくちゃ」どこから訂正すべきか迷う
記憶とはちがうあらすじなぞる君それでもいいよそのほうがいい
血のなかに溶ける酸素を意識して深く呼吸をしなさい常に
夏至を過ぎたとはいえ、夕方はなかなか暗くならない。わかっていても、あたりが明るいうちに帰路につくとなんとなく後ろめたい。やっと日が陰った道を歩きながら、まだ明るみを残す空をふり仰ぐと、すでに暗がりに入った低空の薄い雲のあいだに、そのさらに…
うっかりしているうちにラベンダーの花が開いてしまったので、ポプリに加工するのはあきらめて全部刈り取る。樹形が乱れ放題なので、この辺でリセットを目指して枝もごっそり切り尽くし、株を丸坊主にする。うろうろと寄ってきた蚊がラベンダーの香りにひる…
手持ちの画鋲がみんな曲がったり針がとれたりしてしまっていたので、倉庫に新しいのをもらいに行った。あいにく残りがひと箱しかなかったので、箱の半分だけを手のひらにあけて、ちくちくと針の先を感じながら、画鋲どうしがぶつかってたてる、この乾いたち…